データ漏洩対応ガイド

データ漏洩対応における記録の法的要件と重要性:法務部が押さえるべき作成・保存のポイント

Tags: データ漏洩, 法務, 対応記録, 個人情報保護法, 法的リスク, インシデント対応

データ漏洩対応における記録の法的要件と重要性:法務部が押さえるべき作成・保存のポイント

データ漏洩インシデント発生時、企業は迅速かつ正確な対応を求められます。この複雑なプロセスにおいて、発生から終結に至るまでの全ての対応状況を正確に記録することは、法務部の視点から極めて重要です。単なる事後的な検証のためだけでなく、法規制上の義務履行、関係者への説明責任、そして将来的な法的紛争における証拠能力の確保という多岐にわたる目的があるからです。

本稿では、データ漏洩対応における記録の法的要件と重要性、法務部が主導または関与すべき記録の作成・保存に関するポイントを解説します。

記録の法的意義と法務部の役割

データ漏洩対応における記録は、単なるインシデントログではありません。それは、企業がインシデントに対して「適正に対応したこと」を示す重要な証拠となり得ます。法務部はこの記録プロセスにおいて、以下の点を主導またはサポートする役割を担います。

法規制上の記録義務と要求事項

日本の個人情報保護法においては、法第26条第2項及び同規則第7条に基づき、個人情報保護委員会への報告対象となる事態(要配慮個人情報の漏洩等、不正利用のおそれがある漏洩等、1,000人を超える漏洩等)が発生した場合、事業者は事態に関する記録を作成しなければならないと定められています。

具体的に記録すべき事項は、個人情報保護委員会規則第7条により、以下の通り定められています。

  1. 事態の概要
  2. 漏洩等した個人データに係る本人の数
  3. 漏洩等した個人データの項目
  4. 原因
  5. 二次被害の可能性及びその内容
  6. 本人への通知の内容及びその方法
  7. 個人情報保護委員会への報告の内容及びその方法
  8. その他参考となる事項

これらの法的要求事項を満たすことは最低限であり、企業の法的リスク管理の観点からは、これ以外の詳細な情報も記録しておくことが強く推奨されます。

GDPRなど、海外のデータ保護法においても、データ侵害発生時の記録作成義務が定められている場合があります。例えば、GDPR第33条第5項では、すべての個人データ侵害に関する記録を作成し、監督機関が検証できるよう利用可能にしておくことが義務付けられています。記録すべき事項としては、侵害の事実、影響、講じた是正措置などが挙げられています。グローバル展開している企業は、関係する各国の法規制の要求事項を網羅的に把握し、最も厳しい要件に合わせて記録方法を標準化することが望ましいでしょう。

記録すべき内容の具体例

法規制上の最低限の記録事項に加え、企業の防御と説明責任のために法務部として記録を推奨する内容は以下の通りです。

これらの記録は、時系列に沿って網羅的かつ正確に行われることが重要です。

記録の作成方法と留意点

記録は、後から容易に参照・検証できる形式で作成する必要があります。

記録の保存

作成された記録は、適切な期間、安全に保存する必要があります。

記録の活用

作成・保存された記録は、様々な場面で活用されます。

まとめ

データ漏洩対応における記録は、単なる形式的な作業ではなく、企業の法的義務の履行、説明責任の遂行、そして潜在的な法的リスクからの防御のために不可欠なプロセスです。法務部は、法規制上の要求事項を踏まえ、網羅的かつ正確な記録が時系列に沿って作成・保存されるよう、社内体制の構築や記録内容のレビューを主導する必要があります。事前のインシデント対応計画(IRP)策定段階から、記録体制と様式を具体的に検討しておくことが、有事の際に混乱なく、法的要件を満たす記録を作成するための鍵となります。